ルナ先生日記

浜松市中区佐藤にあるルナ動物病院 院長のブログです。 動物病院の先生は日頃こんなこと・あんなことを感じています。 ぜひおたのしみください。

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腎不全~治療~

カテゴリー │泌尿器・生殖器疾患

腎不全~治療~急性腎不全の治療は、積極的に行うことで完治することがあるかもしれません。
慢性腎不全の治療で悩ましいのは、
完治が望めない状態で何を治療の目標にするか?ということになります。

その場合、一番大切なのは飼い主さんと獣医師のコミュニケーションです。

腎不全だけではなくすべての症例で言えることですが、
インフォームドコンセントを十分行い、治療の目標を飼い主さんと獣医師相互で明らかにします。
飼い主さんからよく言われる質問で一番困ってしまうのは、
「先生、治おりますか?」です。

私だって、患者さんだったら主治医に聞いてしまうでしょう。
世の中、原因がわからず対症療法しかできない病気だらけです。
数日間治療して数万円費用がかかり、
動物はますます衰弱し、
飼い主さんの不信感を日々つのらせるケース。
原因がわかっていて治療法が確立されていても、
治療への反応は患者さんによって様々なので、治療当初は予後の予想はつきません。
そのことを飼い主さんに理解していただき、
治療をすすめていくことが大切なんだと思います。

原因が確定でき、治療することで腎不全が治るケースもあります。
たとえば、感染症や糖尿病、尿路閉塞で腎不全になっているなら、
原因を治療することで腎不全という症状は緩和されます。
治療の基本は腎不全を悪化させる
原因(脱水・感染症・ストレス・心不全・手術・麻酔・外傷など)
を是正し、合併症や尿毒症症状の改善を行います。

腎不全の治療
1、尿毒症物質の生体への取り込み抑制
2、残存する腎機能の維持
3、別経路からの尿毒症物質の排泄
の、3本立てになります。

1、
食欲がある動物では、食事療法を行います。
但し、動物の腎不全の食事についてはまだまだ確立されていません。
リン制限・蛋白制限・ナトリウム制限・カリウム添加・アルカリ剤添加などがありますが、
バランスを考え与えるためには、病院の療法食を与えるしかないでしょう。
しかも、食事療法を開始するならばクレアチニンが2.0~3.0㎎/dlと窒素血症が軽度なうちからはじめたほうがいいでしょう。

その他、経口吸着剤も有効です。
尿毒症毒素、尿毒症毒素の前駆物質を腸管内で吸着し、便とともに排泄・除去します。

2、
腎臓の機能が破壊されると、その細胞は元に戻りません、数も増えません。
残された腎臓の細胞に活躍してもらうしかないのです。
尿毒症物質や高血圧が慢性腎不全の進行因子と言われています。
尿毒症物質を吸収しないために、食事療法や吸着剤の投薬を行います。
高血圧には、ACE阻害剤、カルシウム拮抗薬を使用します。
こうした薬剤は、効果があるのは分かっていますが用法・容量は研究段階なので、
各先生の塩梅となるでしょう。

腎不全になると脱水が進行します。
脱水は腎不全を悪化させる要因なので補正しなくてはいけません。
また、腎不全になると体内の電解質バランスもくずれるため、
輸液療法は腎不全の治療の根幹を成すものとなります。

尿が出ない状態になっている場合は末期なので、濃厚な治療が必要となります。
しかし、予後不良で病院内で死亡する可能性もあるため、
飼い主さんは獣医さんの説明をよく聞く必要があります。
治療は尿量のチェックを行いながら、点滴治療で循環血液量を増加させ利尿剤を使い尿量を確保します。
貧血しているなら輸血が必要な場合もあります。
血管への点滴治療で利尿剤を使用しても尿が作られない状態、もしくはBUN、Creが低下しないばあいは
血液透析や腹膜透析(3、で説明します)を行うこともあります。

尿が十分出ていて、BUNが100を越え,Creが10近く,Pも10近くまで上昇している場合の治療法は病院によって異なります。
点滴治療はもちろん、血液透析や腹膜透析することもあります。
脱水の程度にもよりますが、当院では通院治療がメインになります。
日中10時間入院で点滴治療(必要ならば輸血)し、
夜間は皮下点滴して自宅で家族と過ごしていただきます。

腎不全になると血液を作らせるための指令が骨髄に行かなくなるため、
貧血が問題になる場合があります。
当院では、食欲がなく末期的な状態ならば、輸血をおすすめしています。
輸血は、高窒素血症などの尿毒症物質の吸着剤としてもはたらき、
貧血も是正し、食欲が出現し動物のコンディションはかなりよくなります。
しかし、ほとんどの場合は輸血による血液は定着せず、
数週間、はやくて数日で元の状態に戻ってしまいます。
そのため輸血後の調子がいい間に、状態を安定させる必要があります。
食欲がある時は、エリスロポエチンによるホルモン療法によって貧血は劇的に改善します。
その場合、血液を造るための材料である、鉄やビタミンB12、葉酸などの補給が必要です。
週3回の接種で開始し血液量が増加したら、一時中止するか、接種間隔をあけて投与します。
このホルモン療法の欠点は、費用が高いことと、いずれ効果がなくなる場合があるということです。

状態が安定すれば、皮下点滴で脱水しないように維持していきます。
毎日皮下点滴をするか、数日間おきでいいかは状態しだいです。
当院では、できるだけ飼い主さんご自身に皮下点滴をしていただいています。
病院で数回注射のレッスンをすることで、ほとんどの飼い主さんが自宅でできるようになります。
自宅で注射するためには、家族の協力はもちろん、患者である動物が協力的でない限り実施不可能です。
病院ではおとなしく注射できたものが、自宅では動き回ってしまい注射できないことがよくあります。
エリスロポエチンの注射も、H2ブロッカーや制吐剤など薬剤も、
皮下点滴に混ぜれば自宅で行うことができます。
注射薬だけ病院に取りに来ればいいのです。
動物は病院に来るストレスから開放され、費用も薬代だけになるためかなり抑えることができ、
いいとこだらけです。

3、
尿毒症物質は腎不全を悪化させます。
腎臓での排泄が望めない限り、腎臓いがいでこの有毒物質を取り除く必要があります。
その方法が、血液透析と腹膜透析です。
血液透析は浜松で1件できる病院があります。(必要ならばご紹介しています。)
腹膜透析は特別な機材は必要ないので、どこの病院でもできるでしょう。(人の場合、在宅療法で行っている手技なので、動物でもルーチンに行ってもいいのだと思いますが、私自身、行うタイミングがいまいちつかめていません。)

人医では最終的な手段で腎移植が行われます。
日本での腎移植は麻布大学で実施されていますが、予後が決していいものではないそうです。
腎臓を提供する動物は、提供してもらった動物の家族が飼っていくのですが、
こうした道義上の問題も含め、今後も研究されていくでしょう。

以上のような治療を行いながら、
腎不全はまさしく闘病していかなければいけません。
当院でも、2年近く自宅で皮下点滴してがんばっている猫ちゃんもいます。
その飼い主さんいわく、
『定期健診の重要なことを、あらためて感じています。』
定期健診は少なくとも年1回、老齢動物は年2回です。



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